平行世界
act.1
「……ん……?」
目を開けると、そこは見覚えの無い場所だった。
なぜ、こんなところに自分がいるのか…。
三蔵は、記憶を辿ろうとするが、今一つ、意識がはっきりせず、うまくものを考えることができない。

だが、呆けているところでこの状況が変わるとも思えない。
三蔵はとりあえず、現在の状況---なぜ、いきなり人ごみに放り出されたか―――を整理してみる。

ついさっきまで、自分は確かに森にいた。
例によって例の如く野宿し、4人そろってジープに寝て……。


そこから先はよく思い出せない。

あの後、起きて皆で朝食を食べた気もするし、まだ自分以外起きてなく、顔を洗いに行こうとしただけだった気もする。
いつの間にか、この人の行き交う街中に立っていたのだ。

しかし、その「街」とやらも変な部分が多い。
変…否、見たことのない街だった。


ビルの多く建ち並ぶ世界---。

そして、ここまで「車」が多くある街が存在したのにも驚きだ。
第一、その車も"ジープ"のような形ではない。

これがすべてが三蔵にとって新鮮であり、不安を煽るものであった。
と、突然---。



「さーんぞ!」



スパーン

後ろから抱きつかれ、反射的に三蔵はハリセンで殴った。
その後ようやく誰かも分からず殴ってしまったことに気が付くが、向こうが悪いと決め込み、後悔する気は無い三蔵だった。

そして振り返るとそこには…。

「悟空!?」
「えへへ、お待たせ。」

目に少々涙を溜めながらも、悟空は笑いながら相変わらず三蔵って早く来るよな〜、と話し掛けている。しかし、目の前の人物をじっと見るだけで三蔵は声を返すことはしなかった。

そんなことよりもっと気になることがあったのだ。


「お前…なぜ、金鈷が無いんだ?」


---彼は確かに悟空だった。
顔も。体も。声も。
しかしその頭には金鈷ははめられていない。

最初、知らない場所にいるのは自分一人ではなかったのだと安心したのだが、どうやらそれは間違いだったらしい。


本当にこいつは悟空なのだろうか?


三蔵は悟空に似た人物を前にしてさらに漠然とした不安がどんどん広がってきた。
それにたいして目の前の少年は知ってか知らずかきょとんとして三蔵を見上げ、苦笑しながら返した。

「キンコ?…そっか!今回オレ持ちだからお金の心配してるんだ?大丈夫だって!そんなこと。第一、いくらなんでも金庫かついでデートはしねえよ。」




……は?

「デートだと!?」
あまりの爆弾発言に今までの不安が吹っ飛ぶ三蔵。
一方、悟空も三蔵の返事に驚いている。
「ひっでえ!!忘れてたのかよ!!そりゃさ…。」
ここでいったんきり、悟空は照れながら続けた。

「オレがプロポーズして初めてのデートだけどさ…。」

そう言い終えて俯く悟空。照れて真っ赤になった顔を隠したかったらしいが、耳まで赤く、その行動に意味は無かった。
が、そんなことは三蔵にはどうでもいいことだった。


「悟空…。」
「なに三蔵っ?」

三蔵の空気の周りだけツンドラ地帯になったような雰囲気を漂わせ始めたが、浮かれ気味の悟空は気付くことなく明るく答えた。



「悪いが俺は初耳だ。」




その後の悟空の叫び声はあまりの大きさに再びハリセンをくらうほどだったらしい。





結局、何だかんだ言いつつも「デート」なるものをする羽目になった。
とはいえ、最初こそいきなりの展開に不機嫌であったが、それなりに楽しんでいる三蔵だった。

なにより、悟空と2人きりで出掛けるのも本当に久しぶりだ。
この隣で笑っている少年は自分の知っている「悟空」ではないだろう。しかし、金鈷をつけていれば何ら違いのない悟空にいつのまにか普段通りに接している自分がいる。

三蔵はここまで思うと苦笑した。

それは多分、この悟空にとっても同じことが言えるのでは無いか?

この悟空の「三蔵」もまた、自分ではないだろう。本当の「婚約者」である三蔵では。
今は混乱を招くだけなのでそのことは告げずにいるがそのうちに話さなくてはならないかもしれない。



---自分の世界に帰るために。



三蔵は自分が矛盾を感じていることにわざと気付かないふりをした。
帰りたいと願っていると同時に、このままでいたいと願っている。

牛魔王だの、戦いなどない、平和で穏やかなときを。



もう少しで良いから悟空とともに---。

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これはともぞーさんのサイトの企画に参加した時の小説で、最初の段落がお題であります。 このお題でチームごとに小説をリレーしていくわけでして、私のチームのは悟空チーム! 要するにチームによって三蔵を攻める相手が変わるわけです。(攻めるったって…私のいる小説でおいそれすごいことは…)
トップバッターをよいことにものすごいことやらかしたな、自分。なんかトンでもない所にぶっ飛ばしてるし…。
悟空以外のチームの小説を読みたい人は是非ともともぞーさんのサイトに行ってくだい!どれも素敵です! ともぞーの小屋

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2003.3.6  © end-u 愛羅武勇

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