平行世界
act.2
本日のデートプラン
三蔵といつもの場所で待ち合わせ。
そのあと三蔵が見たがってた美術展に行って、そしてお昼。
ネットで見つけた近くにあるっぽいイタメシ屋に行く。
午後からは駅前にある映画館へ。
終わったら駅ビルか、近くのデパートでウィンドウショッピング。
(三蔵の欲しい服があったら、それは買う)
時間があればゲーセンに寄って暇潰して、夕食は予約したレストランへ。
その後は、ちょっと夜景でも見て俺の家にGO!!


「……………」
それを見た瞬間、三蔵はガックリと脱力する。
先程、悟空は「トイレに行ってくる」と言って席を立ったのだが、その際にメモ用紙くらいの紙を落としていった。
拾って見ると、それは悟空が書いたらしい今日のデートスケジュールだ。
こっちの世界の悟空は意外と几帳面らしい。
行き当たりバッタリで行動する、三蔵が知っている悟空とはえらい違いだ。
ちゃんと計画立てて、その通りに実行する悟空がいる事を悟浄や八戒が知ったら何ていうだろうか。

二人が今日行った場所は、三蔵にとっては初めて見るものばかりだった。
高層ビルも、デパートも、映画も。
映画の上映時間が思ったよりも長かったので「ゲーセン」とやらには行かなかったが、三蔵は久し振りに楽しいという思いに浸っていた。
ずっとこの世界に住んでいれば、じきに慣れて、そういった感情もなくなるかも知れないが、当分の間でも退屈はしなくてすむ。
元の世界に帰る方法がわからない以上、どうしたってこの世界に住むしかないのだから。

ただひとつ、三蔵にはどうしても気になっている事があった。
この世界の「三蔵」はどうしてるのだろう?
初めて自分のいる世界を自覚した時は、未来にでも来てしまったのかと思った。
だが、新聞や悟空が言う日付けは、まさに元の世界で三蔵が生きている時と一致する。
だとしたら、これはパラレルワールドとしか考えられなかった。
次元の違うとこで存在する、微妙に元の世界とは違う平行世界。
話には聞いた事があったが、体験するのは三蔵も初めてのことでイマイチ実感がわかないのだった。
とにかく、この世界に「悟空」がいて、その悟空に婚約者の「三蔵」がいるなら自分とは違う三蔵がいるだろう。
今日の待ち合わせ場所に本来の三蔵ではなく、自分がいたのは、「三蔵」が消えた…もしくは、同じように違う世界に飛ばされてしまったんじゃないだろうか。

「三蔵、おまたせっ」
聞き慣れた声に思考を遮られて三蔵はハッとする。
悟空がトイレから戻ってきたのだ。
「何か考え込んでたみたいだけど、どうかしたのか?」
席にはつかず悟空は三蔵のそばへ駆け寄る。
心配そうな表情で三蔵に顔を近づけ、さらに言葉を付け足した。
「今日さ、三蔵ちょっと変だよな。三蔵は三蔵なんだけど、いつもと違う感じがする。
なぁ、具合でも悪いのか?」
「…いや、悪くはない」
どうやら悟空は三蔵の変化に気付いていたらしい。
もっとも別人とは思ってないようだが…。
三蔵は、この悟空に自分がこの世界に迷い込んだ事を話してみようか悩んでいた。
しかし、言ってこんな事信じてもらえるのだろうか。


…と、そんな事を思った、その時。
三蔵の唇に軽く触れたものがあった。


「何か悩んでるんなら言ってくれよ。俺達、婚約してるじゃん。どんな事があったって俺は三蔵の力になりてーよ?」
そう言って、悟空は優しく微笑んだ。
突然の事に、三蔵は呆然としている。
思考が物事に追いついていかず小さなパニックを起こしていたのだ。

さっき自分の唇に触れたのは悟空…悟空の唇で。
悟空の言葉が何故か嬉しくて。
優しく笑った顔を見たら胸が熱くなり、切ないような悲しいような気持ちになって。


すぱぁん!
「〜〜〜っ、いってー!何すんだよ、さんぞ!?」
気が付くと三蔵はハリセンを片手にしていた。
頭を抑えて痛がる悟空をみると、どうやら自分が殴ってしまったらしい。
「うるせぇ、断りもなしに俺にさわんじゃねぇよ! 第一、人前で何しやがんだバカ猿!!」
「えーっ、いいじゃん!恋人だろ。人前だろうがなかろうが、したいって思ったんだから仕方ないじゃんか!」
「だからオマエは動物だってんだ。もっとTPOってものを考えろ!」
三蔵はそこまで言ってハッと自分達の状況に気がついた。

ここは先程まで夕食をとっていたレストラン。
家族連れは流石にこのレストランの雰囲気には合わずいなかったが、カップルや女性同士の客が満席に近い状態で入っている。
キスの時もそうだが、大声で怒鳴りあってては注目されないはずがない。
案の定、好奇の目が2人に集まり、クスクスと密やかな笑いまで買ってしまっていた。
「………ちっ」
我に返った三蔵は立ち上がると、悟空に伝票を押し付けた。
「もう行くぞ!」
「えぇっ、ちょ、三蔵ってば待ってよ!」
出口に向かう三蔵を慌てて悟空が追いかける。だが、三蔵の歩みは早く、悟空が会計を済ましてる時には、もう表に出て行ってしまった。

三蔵は桃源郷よりもずっと星の見えない空を眺めて、ひとつため息をつく。

あの時―――小さなパニックに陥った時に思った気持ちは何だったのか。

不可思議な感情に囚われたくない三蔵だったが、自分の気持ちとはうらはらに考えるのを止める事が出来なかった。

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くうう〜。素晴らしいですよね、英音さんがバトンタッチしてくださいました小説です。 あんな文に付き合ってくださって有難うです!
英音さんのサイトはこちら。三蔵総受?…と思いますが93が多いのですよ〜。 悟空が優しくって素敵です!連載小説が〜!…閉鎖してしまったのでしょうか? PLACTICAL JOKE

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2003.3.6  © end-u 愛羅武勇

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