平行世界
act.3
三蔵は電車に揺られながらパスケースをじっと見ていた。さきほど、定期券を使ったときに取り出したものだ。
因みに三蔵は別に法衣を着ているわけではない。ここに来たときからずっとこの世界の服だ。
…といっても、服はどうやらあまり自分の世界と変わらないようだが。

となると、この服は元の「三蔵」の服となるし、パスケースも「三蔵」の私物だろう。
定期券を取り出したとき、見つけてしまったのだ。

━━━━「三蔵」と悟空が嬉しそうに写っている写真を。

最初は大の大人が恥ずかしげもなく入れていることにくらくらしたものだが(パスケースを落としたとき如何すんだコイツ)見ているうちに改めて痛感した。
やはり、この悟空のそばにいるべきは自分ではないことを。

と、すっと隣から悟空がよりかかって来た。そちらに目をやると悟空は静かに目を閉じて体を寄せてきている。
悟空のとても安心している顔を見て、三蔵が酷く辛そうにしたのを、この悟空は気付いただろうか…。





「三蔵に一度見せたいんだ。ここの夜景。」
ここ、といっても、悟空のアパート近くにある公園である。話では、どうやら奥まった所に夜景が見れる絶好のスポットがあるらしい。悟空は三蔵を先導しながら弾むような足取りでどんどんと進んでいった。

やがて…。


「スゴイな…。」


三蔵は呆然としながら夜景を見つめた。百万ドル…とはいかなくとも旅をしながらではおおよそ見れることのない、見事な夜景だった。
いままでとて、別に夜の町を見たことがないわけではない。旅をしていれば夜に高いところから町が見えることもある。
しかし、ビルも、車も多く存在しないあの世界ではどの町も━━━村は言うまでもなく━━━ぽつぽつと明かりが見える程度である。全く光がない所などは見事に真っ暗で、高いところから見るとそこは穴のようで吸い込まれそうなほどおぞましいものだった事を覚えている。

夜景がこんなに綺麗なものだとは思わなかった…。

食い入るように見つめる三蔵に悟空はしてやったりと言った感じで三蔵の顔を見つめていたが突然後ろから抱き付いた。
三蔵はいきなりの行動に、ビックリした。そして思わず引き剥がそうとしたので、悟空は抱きしめる力を強くした。

「三蔵。」
「あ?」
「オレ、三蔵に出会えて嬉しいよ。本当に…。」

どこか泣きそうな声だった。三蔵はゆっくりと目を閉じた後、迷いのない目で開いた。そして悟空に向き合って言った。

「オレは、お前の三蔵じゃない。」

悟空は俯き、三蔵の胸に顔をうずめていた。取り乱す様子のないことにほっとしたまま三蔵は続けた。
「だから…。」

「違うよ。」

悟空は三蔵の声をさえぎり、見上げてにっこりと笑った。いつも悟空が見せている笑顔とは違う、透き通った笑み。
「貴方はオレの三蔵だよ。」
悟空は背伸びして三蔵の額にキスをした。そしてキスはだんだんと下におりて行く。
三蔵の口に到達したら、今までとは違って深い口付け。

三蔵はずっと続くかと、ずっと続けたいと感じた。
やがて、どちらともなく離される。

「オレの三蔵は貴方の中にいる。それとも、貴方がオレの三蔵の中にいるのかな…。」
悟空は目線を合わせてささやくように言った。
「お前は気づいて…?」
三蔵は驚きを隠せずに見つめ返せば、苦笑した悟空の顔が映る。
「さあ?なんでかな。三蔵のことは何でも分かっちゃうのかな…。」
「茶化すな。」

三蔵はキツメに言ったが、笑うだけで、悟空は理由を話すつもりはないらしい。ひとしきり笑い終えた後、悟空は言った。
「ねえ三蔵、もう少し、このままでいていい…?」
「断っても、離すつもりないだろ、お前。」
「そうだね。」
また悟空は笑った。





どれくらい時間が経ったのだろうか。悟空はゆっくりを三蔵から離れた。しかし、真っ直ぐに三蔵を見つめた。

「三蔵、よく聞いて。元の世界に戻りたかったら戻りたいと思わなきゃいけないんだ。そのためにも思い出して。」

「あの朝、何があったの?」





どこか遠くで警告の音が鳴る。


それは思い出せというものなのか、
思い出すなというものなのか━━━━…。

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背景にある写真はここのシーンから。 夕焼けっぽい空を貼りたかったのです。…と思っていたら夕焼けのシーンなんてなかった!…うわー今気付いたよ!スゲー馬鹿ん。 でも今更引き返せないしもういいや。他の小説も意味があるようで関係無い写真貼っつけてるし〜。
夕焼けって西あたりは空も真っ赤ですが、すこし頭上に移すと深い青に染まっているだけで雲だけ赤くなってるんですよね。 …でもそんな写真どこの素材探してもなかったんで、この写真はもともと青空だったのを勝手に加工したエセ夕焼けです。(もち加工OKサイト様から頂いたものです)
そういえば、ようやく出てきた93シーン、もだもだしながら書いてた覚えがある…。ああ、なんてシャイな自分!(言わせてやってください)

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2003.3.6  © end-u 愛羅武勇

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